大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 平成4年(ヲ)2540号 決定 1992年10月13日

申立人 甲田不動産ファイナンス株式会社

右代表者代表取締役 甲野太郎

右申立人代理人弁護士 原後山治

同 三宅弘

同 近藤卓史

同 大貫憲介

同 髙英毅

同 杉山真一

相手方 丙川一郎

<ほか四名>

当庁平成三年(ケ)第二八八号土地・建物競売事件につき、申立人から売却のための保全処分命令の申立があったので、相手方らそれぞれのために金一〇万円の担保を立てさせた上、次のとおり決定する。

主文

一  買受人が代金を納付するまでの間、別紙物件目録記載の建物に対する相手方らの占有を解いて、東京地方裁判所執行官に保管を命じる。

二  執行官は、その保管にかかることを公示するため、適当な方法をとらなければならない。

理由

本決定は、民事執行法五五条二項に基づき、売却のための保全処分として執行官保管を命じるものである。

(以下、別紙物件目録記載の建物を「本件建物」という。)

一  これまでに発令した保全処分

これまで当裁判所は、差押債権者である申立人の申立に基づき、相手方らに対し、以下のとおり売却のための保全処分を発令してきた。

(一)  相手方丙川一郎は、二回目の期間入札の実施された段階に至って、内装・外装工事の上、本件建物の占有を第三者に移転しようとし、しかもその第三者が暴力団関係者となる可能性も高いと考えられた。そこで当裁判所は、平成四年七月三日、丙川に対し、本件建物についての工事の中止を命じ、工事の続行を禁止し、占有の移転又は占有名義の変更を禁止し、かつ執行官に対し、丙川が占有の移転又は占有名義の変更を禁止されたことを公示するよう命じた。

(二)  この保全処分命令の執行(同月六日)の際、執行官は、本件建物の一階部分は相手方丙山株式会社、相手方株式会社乙野(いずれも代表者は乙山春夫)及び相手方丁川専門学院こと乙山春夫(これらをまとめて、以下「乙山ら三者」という。)が共同占有し、二階部分は乙山ら三者及び丙川が共同占有していると認定した。

しかし乙山ら三者は、丙川が執行妨害を目的として、差押後に本件建物に入居させ、その占有の外形を作ったものに過ぎず、丙川の占有補助者とみるべきものであった。

そこで当裁判所は、同年八月一四日、乙山ら三者に対し、決定送達後五日以内に本件建物から退去するよう命じた。

(三)  さらに同月二六日になって、相手方有限会社戊戊原こと戊田秋夫が本件建物の二階に入居し、その看板を掲げたが、これも乙山ら三者と同様、丙川が執行妨害を目的として、差押後に本件建物に入居させ、その占有の外形を作ったものと認められた。

そこで当裁判所は、同年九月一七日、戊田に対し、決定送達後五日以内に本件建物から退去するよう命じた。

二  保全処分の送達等

(一)  丙川に対する第一項(一)の保全処分は、送達のため、その住民票上の住所に宛てて発送されたが、転居先不明との理由で裁判所に返送された。丙川は同所にも、また同人が代表取締役を務める甲川商事株式会社の所在地にも居住しておらず、住所・居所も判明しない。結局、丙川の所在が不明なため、送達はなされていない。

(二)  乙山ら三者に対する第一項(二)の保全処分は、まず本件建物の所在地に宛てて発送されたが、送達できなかった。これには、次のような事情がある。すなわち、本件建物には、八月二〇日までに「八月二四日まで夏期特別休暇とさせていただきます。」とのはり紙が出され、その後「当社は八月三一日迄夏休みとさせて頂きます。九月一日(火)より平常営業致します。」とのはり紙に、さらに「九月七日まで休業致します。八日(火)より営業致します。」とのはり紙に張り替えられた。またこの間、人影も殆どない状態が続いていた。そのため送達できず、九月二日に裁判所あて返送されることになったのである。

そこで、次に、乙山春夫の住所(丙山及び乙野の商業登記簿に記載されたもの)に宛てて発送されたが、これは転居先不明として裁判所あて返送された。

こうして、乙山ら三者に対しても、保全処分はいまだに送達されていない。

(三)  戊田に対する第一項(三)の保全処分は、九月二一日に送達されたが、戊田はこれに従わず、現在も本件建物の占有を続けている。

三  申立の内容

申立人は、以上の事実を前提とした上、民事執行法五五条二項に基づき、売却のための保全処分として主文に記載のとおりの執行官保管の決定を求めた。

四  申立を認めた理由

当裁判所は本件申立を認めることとする。その理由は次のとおりである。

(一)  丙川は、執行妨害を目的として、乙山ら三者及び戊田に本件建物を占有させている。しかも同人らは、悪質な執行妨害を行ったことがあるか、少なくともそのような執行妨害を行ったことのある者と密接な関係を有すると疑うべき根拠のある者である。

丙川のこのような行為は、本件建物の価格を著しく減少させる行為と認められる。そして丙川は、民事執行法五五条一項の規定による命令に違反したとはいえないけれども、丙川が所在不明である以上、一項の規定による命令の送達は公示送達以外の方法によることが不可能であり、公示送達しても同人がその命令の内容を現実に知り、これに従う可能性はない。よって、形式的に五五条一項の命令及びその送達を行うことは無意味であるから、これを省略して執行官保管を命じることは許されるべきものである。

(二)  乙山ら三者は、第一項(二)の保全処分の送達を受けていない。しかし、第二項(二)に述べた事実関係から判断すると、乙山ら三者はその送達を妨げるために妨害工作をしたものと考えられるから、送達前であっても、民事執行法五五条二項に基づき、執行官保管を命じることが許されるものと判断する。

(三)  戊田は、第一項(三)の保全処分の送達を受けながら、これに従わない。よって、執行官保管を命じることとする。

(裁判官 村上正敏)

<以下省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例